グーグルの「Google フォト」は提供開始から5年以上にもわたり、写真管理アプリとして推奨するには無難な選択肢のひとつだった。機能が豊富で複数のデヴァイスで利用でき、動作が速くて使いやすく、そして何よりも重要なのは解像度が「高品質」(「圧縮」の丁寧な呼び方である)の場合は無料かつ無制限で写真を保存できることだった。
そのサーヴィスの規約が変更されることになる。2021年6月からGoogle フォトでユーザーの負担が増える可能性があることが、11月11日(米国時間)に発表されたのだ。データの保存が15GBを超えると課金されることになるという。
ここで変更点について明確にしておくことが重要になる。まず前提として、すべてのGoogleアカウントには15GBの無料ストレージが付与され、これは通常は「Gmail」のメッセージや添付ファイル、「Google ドライブ」に保存されたファイル、そしてオリジナルサイズでGoogle フォトにアップロードされた写真データなどによって消費される。この点については変更がない。
ところが現時点では、写真をアップロードする際に写真のサイズを最大16メガピクセルに変更できるオプションがあり、これらの写真と解像度1080pまでの動画は15GBの制限にカウントされなかった。それが2021年6月1日以降は、新たにアップロードされる写真であれば、どのサイズであっても保存容量にカウントされることになる。
「価値に見合った変更」を決定
幸いなことに、既存の「高品質」な写真と動画、そして来年5月までアップロードした「高品質」写真は15GBの制限が適用されない。「もちろん人によって使用量はさまざまですが、80パーセントのユーザーはほぼ3年間は上限に達しないと思います」と、Google フォト担当ヴァイスプレジデントのシムリット・ベン・ヤイールは説明している(なお、グーグルのスマートフォン「Pixel」シリーズからアップロードされる「高品質」の写真は引き続き制限が免除される)。
「多くのユーザーが思い出の保存場所としてGoogle フォトを信頼し利用しています。単に優れた製品であるだけでなく、長期にわたってサーヴィスを提供できることが重要だと考えています」と、Google フォトのプロダクトリードのデイヴィッド・リーブはTwitterに投稿している。「現在だけでなく長期にわたってこれを可能にするために、サーヴィス(コンテンツの保存)の価格設定を、ユーザーが享受する主要な価値(どこからでもアクセス可能で人生の記録を保存できる利便性)に見合ったものにすることを決定いたしました」
結局のところサーヴィスを完全に打ち切ってしまうよりも、有償化して維持するほうがいいということなのだ。
かつてDropboxが提供していた写真管理サーヴィス「Carousel」のユーザーが口を揃えて言うように、クラウドストレージを提供する事業者を失うことから立ち直るのは困難である。そしてグーグルはこれまで、人気のあるサーヴィスの提供を打ち切ることを躊躇していない(長期にわたり提供されていたRSSリーダー「Google リーダー」の打ち切りを思い出してほしい)。そしてグーグルのリーブによると、ユーザーに直接課金するほうが広告を通じて収益化するより望ましいようだ(こちらはいまのところ検討されていない)。
代替の選択肢は?
それでも、思い出を保存する場所としてGoogle フォトだけに頼るようになった多くのユーザーにとって、これはありがたくない変更である。上限を超えると、ストレージの拡張プランは100GBで年間20ドル(日本では年額2.500円、月額250円)からになる。
グーグルは現在のアップロードの状況に基づいて、ストレージが制限内に収まる期間を推定するツールを導入している。また来年には、アップロード済みのデータからぼやけた写真や暗い写真、長い動画など、削除したほうがいいものを簡単に探せるようになる。
Google フォトのサーヴィスが完全に打ち切られるよりも、有償化のほうがいいのは確かだろう。しかし、そもそもこれほど多くの人がこのサーヴィスを利用している主な理由は、無料かつ無制限の価格設定が小規模の競合を締め出してきたからである。これまでにグーグルはGoogle フォトで損失を出したかもしれないが、ユーザーの囲い込みには成功したのだ。
これに対してアップルの「iCloud」のストレージは月額利用料がグーグルと同じであり、iPhoneのユーザーにとっては魅力的な代替手段になる可能性がある。ただし、この場合、数年分の画像と動画ファイルを新たなプラットフォームに移動しなければならないという不便さが生じる。
「Amazon Photos」は無制限でフル解像度の写真ストレージと5GBの動画ストレージを提供するが、これを利用できるのはAmazon プライム会員のみである。それ以外のユーザーは写真と動画を合わせて5GBの容量で、増やしたければAmazon プライムに登録するか、有償で1テラバイトのプラン(日本では年額13,800円)を申し込むことになる。しかも、このプランはグーグルやアップルのものよりはるかに容量が大きい。
無料は永遠には続かない
無料のものは永遠には続かない。最も人気があり人々のデータを飲み込んでいる機能(Google フォトには毎週280億件の写真と動画がアップロードされている)のひとつにグーグルが課金を始めるという決定は残念なことかもしれないが、驚くことではない。だが、それはGoogle フォトのサーヴィス停止や広告の表示という代替案より望ましいことは確かである。
一方で、クラウドストレージやライドシェアの料金、サブスクリプションで楽しめる映画など、消費者にとってあまりに都合のいい条件が継続するのは、それを提供する企業が競合を排除してしまうか、途中で倒産してしまうまでである──。そんなことを、改めて実感する出来事だった。