ブラジル・サンパウロ州内陸部には、日本文化を軸に共同生活を続ける独特のコミュニティ「弓場農場(Yuba Farm)」 が存在します。
一般の観光地とは異なり、経済合理性よりも“共同体としての暮らし”を重視した社会が、100年近く大切に守られてきました。
本記事では、弓場農場の概要・成り立ち・生活様式・訪問時のポイントを、第三者的な視点で紹介します。
■ 弓場農場とは?── 日系移民が築いた共同体
弓場農場は1920年代、日本からブラジルへ移住した弓場勇氏を中心に形成された共同体です。
その後、志を同じくする若者たちが加わり、農業を基盤とした “自給・共同” の生活文化 を育ててきました。
特徴としては以下のような点が挙げられます。
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約20世帯・50〜60人規模で生活
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共同財布方式(個人収入ではなく、共同体運営が優先)
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農業・食品加工・芸術活動が中心
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日系らしい規律と共同生活の文化が色濃く残る
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“来る者拒まず、去る者追わず” のスタンス
特定の宗教団体ではなく、あくまで“生活共同体”。
その意味で、外部の訪問者にも比較的開かれている点が特徴です。
■ どうやってできたのか:歴史の概要
● 1920年代
弓場勇氏一家がブラジル移住。周囲の若者たちと共同生活を開始。
● 1930〜50年代
コーヒー農園や自作農として活動しつつ、共同体の基盤を形成。
農業や共同炊事、文化活動(特に合唱や舞踏)が発展。
● 1960年代以降
都市化の流れとは距離を置きつつ、共同体としての自給的生活を維持。
● 現代
日系三世・四世を含むメンバーが生活。日本語とポルトガル語が併存し、外部からの訪問者も増え、文化コミュニティとして再注目されている。
■ 弓場農場の生活:自給・労働・共同体運営
弓場農場の生活は、現代の都市生活とは大きく異なります。
主な特徴は次の通りです。
● 1. 農業を中心とした自給生活
主に野菜・果物の栽培、鶏の飼育など。
必要なものを可能な範囲で自分たちで生み出すスタイル。
● 2. 個人収入より「共同財布」
農場の収入は共同体の運営に使われ、個々の収入という概念は薄い。
経済的な序列が発生しにくい環境といえる。
● 3. 文化活動が生活の一部
弓場農場は舞踏や合唱など芸術活動でも知られています。
農作業と文化活動が同じ“生活のサイクル”の中に存在する点が特徴。
● 4. 相互扶助が基本
子どもは共同で育てる。家事も役割分担。
「家族の拡張版」のような仕組みが自然に成り立っている。
■ 現地へのアクセス(概要)
※実際の訪問には事前調整が必要です。
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最寄り都市:アンドラジーナ(Andradina)、アラサトゥーバ(Araçatuba)
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サンパウロ市からの距離:車で約6時間(バス移動も可)
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訪問はアポイント必須:いきなり行くのではなく、事前に公式や連絡先を通じて確認が必要
外部との接点が少ない共同体のため、「観光地として行く」よりも「見学させてもらう」 という意識が重要です。
■ どんな人に向いている場所か
弓場農場は、一般的な観光スポットとは違います。
次のようなテーマに関心がある人には、訪問価値が高い共同体です。
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日系移民の歴史に興味がある
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共同体・自給生活・コミューンに関心がある
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日本的価値観が海外でどう保たれているか見たい
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消費社会とは異なる生き方を知りたい
「異世界」という表現は大げさではなく、ブラジルという国の広さを実感できる、独自の世界がそこにはあります。
■ まとめ
弓場農場は、サンパウロから行ける範囲にありながら、都市社会とはまったく異なる思想と生活が根付いた、日本人ルーツのコミュニティ です。
訪問には配慮と準備が必要ですが、共同生活の仕組みや、日系移民の歴史、文化の継承を知る上でとても貴重な場所と言えます。
