佐川急便でパワハラ、30代係長が自殺 内部通報生かせず 「企業任せ」限界露呈
佐川急便でまたパワハラ自殺、上司が激しい叱責「お前どれだけ嘘つくんだよ」 会社は謝罪
佐川急便(本社・京都市)が東京都品川区に置く物流配送営業所の男性営業係長=当時(39)=が2021年6月、上司2人からの度重なる叱責しっせきによるパワーハラスメントなどを理由に、営業所で自殺していたことが明らかになった。同社では内部通報があったが生かせなかった。2020年6月にパワハラ対策を大企業に義務付けた法律施行後も、働く人の自殺は後を絶たない。
遺族代理人の弁護士らが2021年11月4日、厚生労働省で記者会見して公表した。
◆複数の上司が関与か 40分以上叱責も
代理人によると、男性はドライバーの管理や営業を担当。2020年6月ごろから別の課の課長らに朝礼で叱責されたほか、社内のチャットで「なめ切ってるな」「うそつき野郎はあぶりだすからな!」などのメッセージを受けた。亡くなる前日には直属の上司の課長から電話で「うそつくやつとは一緒に仕事できねえんだよ」と言われ、机の前に立たされて40分以上叱責を受けた。男性は2021年6月23日朝、勤務先の営業所から飛び降り自殺した。
◆会社は被害者に聞き取りせず
亡くなる2カ月前、男性と同じ営業所の社員を名乗る人物が匿名で2人の課長の行為が「パワーハラスメントに該当するのではないか」と内部通報していた。だが、同社の管理部門は男性本人を含む部下へ直接調査を行わず、当事者の上司らからの聞き取りのみで、パワハラを確認できないと結論付けた。代理人は「(内部通報の)窓口が機能しない典型例」と批判した。
男性の死後、佐川急便は外部の法律事務所による調査なども実施。本村正秀社長が2021年9月にパワハラの事実を認め、遺族に謝罪した。遺族側は労災の申請や損害賠償の請求などを検討している。男性の妻は「どんなに謝罪されても夫は帰ってきません。今回のことを決して風化させないでほしい」とのコメントを出した。佐川急便は本紙の取材に「再発防止に取り組む」と答えた。
◆求められる厳しい法整備
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)で大企業に相談窓口の設置など対策を義務付けている。だが、佐川急便の事例では通報を受けた調査が機能せず、企業任せの限界が露呈した。企業への罰則規定など実効性のある法整備が求められる。
パワハラについて厚生労働省は、威圧的な叱責といった精神的攻撃や身体的攻撃など6種類の該当例を示す。防止法では、パワハラ内容の周知や相談窓口設置、迅速な対応を企業に義務付けた。違反すると行政の是正指導や勧告があり、従わない場合に企業名が公表されるものの、パワハラ行為自体を禁止しておらず企業への罰則もない。
トヨタなど多くの企業は相談窓口を設置していたが、自殺を防げなかった。政府は、ハラスメントを禁止する初めての国際労働機関(ILO)条約の批准に後ろ向きで、被害の防止は十分ではない。