【転載】この記事は普通に面白いので読んで~ロシア対外諜報のトップが語る日本との関係~



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個人的にモスクワを訪れていた筆者のところへ突然、ロシア対外諜報機関のトップから、「会いたい」との連絡が来た。その経緯は、第1回目「ロシア対外情報庁長官が語るアメリカと中国」でお伝えした。セルゲイ・ナルイシュキン対外情報庁(SVR)長官インタビューの第2回目は、ロシアと日本との関係、日ロ平和条約へ向けた交渉、今年予定される安倍首相のロシア訪問と両首脳の会談がテーマ。

 

石川 日本との関係をお聞きしたい。日本とロシアとの間では、複雑で困難な平和条約交渉が行われています。日本はアメリカと安全保障条約を結んでいますが、これは日本の安全を保障するための選択であり、第3国に対抗するものではありません。ロシアは日米安保のどこに懸念を抱いているのですか。日本は同時に北東アジアの平和と安全を強化するためにもロシアとの関係を強めたいと考えています。ロシアは日本とアメリカの関係のどこに懸念を抱いているのですか。

ナルイシュキン これは対外情報庁(SVR)長官としてではなく、まったく個人的な意見ですが、私は驚きを感じます。いつですか、日本がアメリカと同盟を結んだのは。

石川 1951年ですよ。

ナルイシュキン 1951年ですか。日本は約70年前にアメリカを自らの安全の保証人としました。なぜですか。1945年にアメリカは日本に原子爆弾を投下しました。若い世代の日本人は忘れているかもしれませんが、あなたはよく覚えていますよね。私もよく覚えています。それでもアメリカを保証人としたことに驚き、奇妙に思います。もちろんこれは日本の自らの主権に基づく選択でしょうし、今も日本の権利でしょう。でも私は驚きを覚えます。本当に、SVR長官としてではなく一個人としてそう思うのです。

ロシアを「敵」と規定するアメリカの軍隊の存在

石川 あなたが(下院議長として)訪日した時、原爆投下は「人道に対する罪」だと述べたことを私は覚えています。

ナルイシュキン 私は心底、原爆投下は戦争犯罪であり、「人道に対する罪」だと思っています。考えてみてください。今、核兵器を一般市民に対して使用したらどのような反応が起きるのか。考えてみてください。被爆者の多くは広島や長崎の一般市民でした。仮に今日再びそのようなことが起きれば、「人道に対する罪」以外の何物でもないですよね。しかも、今もって被爆者は原爆症で苦しんでいます。私は広島、長崎に原爆投下された日にはいつも被爆した方々のことを思って心が痛みます。これはあくまで私の個人としての意見です。

それはそれとして、日本は自らの主権に基づいて安全の保証人を選びました。ロシアと日本は、隣人として良い関係にあります。神によってわれわれは隣人となり、今後とも良き隣人であり続けることを期待しています。簡単に言いますと、私は日本には何の文句もありません。しかしあなた方の保証人、アメリカ合衆国は自らのドクトリンや安全保障の戦略文書において、ロシアを自らの「反対者」としています。

いくつかの文書ではもっとひどい表現をしています。「敵」と規定しているのです。この文脈でロシアとしては日本とアメリカの軍事同盟を心配するのは当然でしょう。軍事同盟そのものと、その同盟がどのように具体化しているのか、かなり強力なアメリカ軍の部隊が日本に配備されています。この点でロシアが平静でいられるわけがないじゃないですか。私たちの国境のすぐそばですよ。そこにロシアを敵国と考える国のかなり強力な軍隊が存在する。これはロシアにとっては脅威でしょう。

石川 ではあなたは、日米安保条約はある意味でロシアに向けられたものと考えているのですか。

ナルイシュキン 条約そのものではないのです。これは日本が決めることであり、私たちは日本のことは尊敬しています。でも条約のもう1つの参加国が問題なのです。あなたの最初の質問ですでに答えましたが、この国は衝動的、攻撃的な外交政策をとっています。

ここ20年を見ても、たとえばユーゴスラビアの空爆があります。ヨーロッパの近代的な国家の首都が空爆されたのですよ。まったく現代の野蛮行為です。そしてイラク戦争。ここでは最も少ない試算でも30万人が死んでいます。おそらく100万人死んでいるかもしれません。そしてリビア。このような攻撃的なアメリカの外交政策を心配しています。

一方、世界の戦略的な安定を維持してきた条約について見てみましょう。ABM(弾道弾迎撃ミサイル制限)条約をアメリカはひねりつぶすように破棄してしまいました。そしてINF(中距離核兵器)全廃条約も同じ運命をたどりました。イランの核合意から脱退したのもアメリカです。ですから、日米軍事同盟の一方の当事者がアメリカであることを懸念せざるをえないのです。

両国間にはまず、平和条約が必要だ

石川 私は日米安保条約と日ロの平和条約は共存できると考えています。あなたの考えは。どのようにすれば日米安保と日ロ平和条約が共存できると考えるのですか。

ナルイシュキン 私の意見を言わせていただければ、日本が中立国であればよいと思います。理想をいえばね。中立国の立場です。日本への脅威というものは、私は何も存在しないとみています。もちろんそれは日本が主権国家として自分で決めることで、干渉するつもりはありません。ただ私の意見を言っただけです。

石川 しかしわれわれの周辺の状況を考えると、中立国になれば、自分の安全は自分で守る必要があります。日本としても今よりも軍事力を強化して、自主防衛をしなければなりません。

ナルイシュキン それはそうでしょうね。でもヨーロッパを見てごらんなさい。中立国はありますよ。生活レベルは良く、平和に暮らし、だれも彼らを脅かさないし、彼らも誰も脅かさない。スイスやオーストリアを見てください。あるいはスウェーデンも。

石川 でもわれわれの周辺には北朝鮮がいますし、中国も軍事力を拡大しています。もっとも中国とは今年、習主席の訪日予定もあり、パートナーでもありますが。

ナルイシュキン あなたもそう言ったじゃないですか。中国の側から日本に対して悪い考えというのはありませんよ。中国と日本は隣国でしょう。日本とロシアが隣国なように。日本はロシアの脅威じゃないし、ロシアも日本の脅威ではありませんよ。

石川 ではどのような平和条約をあなたは日本と結びたいのですか。平和条約は必要だと考えていますか。

ナルイシュキン ウラジーミル・プーチンが2年前に提案した「前提条件を付けずに平和条約を結ぶ」という言葉を覚えているでしょう まだこれは提案のままですが、私はこの提案に大賛成です。

石川 でも、われわれの間には問題があります。その解決が必要です。

ナルイシュキン まず平和条約を締結することが大事です。そしてわれわれの間に存在する問題を交渉すればよいでしょう。戦争が終わってから75年たちましたが、お互いに良好な関係にあって、貿易額も大きいし人の交流もある。文化交流も広範に行われている。この両国の間に平和条約がない。これは正常な状態ではありません。そのため平和条約は必要です。私はプーチン大統領の「前提条件をつけずに平和条約を」という提案を心底、支持しています。そうすればあなたの言う問題の解決も容易になるでしょう。

ソフトバンク元社員の事件はアメリカが絡んでいる

石川 SVRと日本の相応する機関との関係強化についてはどのような見通しを持っていますか。

ナルイシュキン 関係は肯定的ですよ。私が日本を訪問して1年になりますか。テロ対策の分野ではかなり詳細な話もしましたし、お互いが関心をもつ不安定地域についても深い意見交換ができました。

石川 北村さん(北村滋国家安全保障局長、当時は内閣情報官)とですか。

ナルイシュキン そうですよ。こうした関係は重要です。われわれが最高指導部に何らかの助言をするように、日本の同僚も同じことをしますよね。だから不安定な地域について、それぞれの意見や見方を交換することは重要です。日本のパートナーとの相互関係は発展していますし、私たちはそうした関係に満足しています。まあ一般的にいえば、たとえ問題が存在しても、対外諜報どうしや治安機関どうしは、プロフェッショナルとして良い関係を持てて、理解し合えるものです。

石川 最近、日本である事件がありました(注)。そして1人のロシアの外交官が、貿易代表部に勤めていました人ですが、日本を去りました。日本の警察はこの件をあなたの機関による工作だとしています。なぜ、このような事件が続くのですか。(編集部注:今年1月、ソフトバンクの元社員が社外秘の情報をロシア貿易代表部の職員に渡していたとして逮捕されたもの)

ナルイシュキン 私たちは日本政府の措置はロシアに対する非友好的な態度だとみなしています。その外交官についていえば、私の知る限りでは、任期を終わったということです。まさに任期が終わるべき時に終わり、登録の期間も終了した。だから帰国したということで、私の知る限り、日本側からは公式には彼に対して何の嫌疑もかけられていません。何らかの嫌疑があるのなら言ってください。

石川 外交官の肩書を使ってあなたのもとで働いていたと。

ナルイシュキン プレスは何とでも書きますよ。本質的には何の嫌疑も問われていないのです。彼は任期を終わり、戻っただけです。だから繰り返しますが、非友好的な行為、しかもわれわれの評価では、この行為はアメリカの求めに応じて行われたということです。それだけに日本の主体性がないということで、そのことも残念ですがね。日本にとって。

石川 この事件は日ロ関係に影響しますか。

ナルイシュキン 全体としてはまったく影響ないですね。われわれは治安機関・諜報機関のラインも含めて、経済面でも政治面でも文化面でも日本との関係を深めたいですね。

5カ国首脳会議のテーマは「崩壊寸前の国際法秩序」

石川 プーチン大統領は、アメリカ、ロシア、中国、イギリスそしてフランスの安全保障理事会常任理事国による首脳会議を提案しています。私はもちろんこの5カ国が重要な役割を果たしていることは認めますが、なぜ戦争から75年たった今、再び5カ国首脳会議なのか、奇妙に思います。

この5カ国で第2のヤルタみたいな会談を開き、再び世界におけるそれぞれの影響を及ぼす地域を分けようとしているのですか。それとも、もっと率直に言いますと、何か閉鎖されたクラブを作り、そこでの決定をほかの重要なプレーヤー、日本も含むプレーヤーに押し付けようとしているのではないですか。

ナルイシュキン 閉鎖クラブを創設しようなどとは思っていません。ただ客観的に見てですね、この5カ国は、安全保障理事会の常任理事国ですし、この5カ国だけに拒否権が付与されているのは偶然ではありません。ほかのどの国でもなくこの5カ国だけが法的に核保有国であることが認められています。もっとも実際の保有国はもっと多いですが。

繰り返しますが、閉鎖クラブではありません。もしもプーチン大統領の呼びかけが実現して、5カ国の首脳会議が開催されれば、会議は閉ざされたものではなく、公開されたものとなるでしょう。プーチン大統領はまさに世界の平和と安定のために呼びかけたのです。

5カ国首脳会議のテーマですが、私の考えでは、まずは国際法秩序の問題です。国際法秩序は今や崩壊寸前です。その結果として、世界の平和と安定は危機にさらされています。プーチン大統領はまさにこの観点から5カ国首脳会議を呼びかけたのでしょう。

石川 私たちが心配するのは、来年、新START(新戦略兵器削減条約)が期限を迎えることです。新たな軍拡競争が始まるのではないかと懸念しています。特に核兵器の分野で。このテーマについても議題となるのですか。特に日本は中距離核兵器の軍拡が始まるのではないかと心配しています。中距離核兵器は、日本にとっては海の向こうの脅威ではなく直接の脅威です。私たちとしては軍拡ではなく、日本の周辺にある中距離核の削減をしてほしいのです。

ナルイシュキン それは理解できますよ。そう思います。新STARTについていえば、これは全地球的な戦略的安定を規定する条約ですから、そのことも話し合われるでしょう。ただより重要なのは、平和と安全の基本原則となる国際法秩序の問題でしょう。

石川 今年、安倍首相は2回、ロシアを訪問するかもしれない。5月9日と9月2日か3日の前後です。この両方とも深く歴史と結びついています。5月9日はあなた方にとっては対ドイツ戦勝記念日です。9月2日、3日は、まさに第2次世界大戦終結の日としてわれわれの悲劇的な歴史と結びついている。この歴史と深く結びついた日に戦後75周年の今年、安倍首相がもしもロシアを訪問して、日ロ首脳会談が行われるとしたら、どのような意味を持つべきですか。9月については、両首脳は単に会談するだけではなく、歴史を克服するための何らかの行動をする必要があるのではないですか。

ナルイシュキン 何を話すべきか、どのような意味を持つべきか。私はですね、平和のために、この大戦でいかに多大な犠牲を人類が払ったのか、そのことを両指導者が思い出し、記憶にとどめ、そして犠牲者を慰霊して、平和を維持することを誓うべきだと思います。もちろん会談の中身はもっと深いものになるべきですが、その日に行われる意味としては、こういうものだと思います。

両国の首脳が平和について語るべき

石川 もしも、9月2日、3日に会談が実現した場合、戦争と平和ということに対する、両首脳による何らかのアクションがあるべきだと個人的には思います。ウラジオストクの周辺には日本の抑留者の慰霊碑や墓もあり、またあなた方の無名戦士の墓もある。何か考えられるでしょうか。

ナルイシュキン 5月9日と9月2日は、大変象徴的な意味を持っている。だから双方のリーダーはこの日の意味について考え、いわば利用して、この日の歴史についての立場を示すのではないか。この日に至った事象、そして両国の犠牲、いや、第2次世界大戦の結果としての人類全体の犠牲について、立場を示すと思う。そのことは、平和というものがいかに脆いものであるかを警告することになり、ロシアと日本両国にとって、この平和を共に守る以外に選択肢がないことを示すだろう。