前回は「 東京クルージング 」で令和の時代の都心から、水路、河川、東京湾巡りで江戸時代を眺めてみました。この時の交通手段が江戸城外堀でした。ここは江戸時代の物資の大量輸送手段であり、物流のメインストリートでもあったわけです。今回はこの「 お堀 」をマクロな視点で見てみましょう。
江戸城と対比されることもある大阪城ですが、周囲は淀川を利用したお堀でぐるりと囲まれ、鉄壁の守りで有名です。大阪冬の陣では、さすがの東軍も攻めあぐね、力攻めを主張する秀忠を家康が抑えました。
英国製の最新輸入兵器・長射程の巨大攻城砲( ガルバリン砲4門、セーカー砲1門、射程6km以上。陸上自衛隊でいえばM59カノン砲かFH70榴弾砲といったところでしょうか?)も登場しました。その大砲で淀殿と秀頼の居る本丸を直撃するという心理作戦で、講和と調略に持ち込みました。
■ 江戸時代「 の 」の字状に城外へ広がっていった城下町発展
大阪城のお堀は、ぐるりと城の周りを囲んでおり、踏み込む隙もない「 お堀 」でした。一方、江戸城の「 お堀 」を見ると、現在は一部埋め立てられていますが、「 の 」の字の形で渦巻状に広がっていることがわかります。
当然、お堀に囲まれた土地も、「 の 」の字に沿って、渦巻状に繋がって伸びてゆきます。つまり、徳川家康は江戸城を中心に城下町が外へ外へと発展できるような都市計画を最初から基本設計していたわけです。
この構造から、これからは戦( いくさ )よりも経済発展だと見込んだ徳川家康の先見の明が感じられます。そのお陰で現在の東京の発展に繋がっているのかもしれませんね。
■ 昭和後半から「 の 」の字状に都心部から建てられていった区分分譲ワンルームマンション
さて、ここで、区分不動産投資家としては、これを東京都心部のマンション( 以下、投資目的で建てられた単身世帯向け投資区分分譲マンションとし、ファミリー実需向けは除きます )の歴史に当てはめてみたいと思います。
すると、意外な発見がありました。ベテラン大家の皆様には、釈迦に説法的なお話で恐縮ですが、マンション投資入門者の方で、これから都心部で中古区分物件を探してみようという方の参考になると思いますので、詳しく紹介します。
私が何を言いたいかというと、「 東京にある区分マンションは、江戸城の周囲の「 の 」の字に沿って築年数が変化していく 」ということです。言い換えると、「 の 」の字の中心部ほど築年が古く、外側へ行くにしたがって新しくなっているのです。
具体的には、初期のワンルームマンションはマイルストーン的な存在であるメゾン・ド・早稲田、四谷ハイツ、中銀カプセルタワー、ニューステートメナーのように、1970年代に山手線内側の都心中心部に建てられました。
そこから1980年代の経済発展期に、城南地区方面の一等地に次々と投資用ワンルーム物件が建設され、城西方面の目黒区、世田谷区、中野区などへ広がってゆきました。
更にバブル期に地価が高騰し始めると、城北、城東と都心直近で利便性が高い割に、比較的地価が低めで土地が仕入れやすいエリアへ「 の 」の字状に広がってゆきます。
そして1990年代、京浜地区へ飛び出し、札幌、福岡、大阪、名古屋、仙台と全国の中核都市へ飛び火してゆきました。この流れ、江戸時代の江戸城水路に「 の 」の字発展にそっくりですよね(笑)
このハイアラーキーを知っておくと、およそ、どの程度の築年数の物件なら、どのあたりのエリアを探せばお目当ての物件に巡り会える確率が高いか?のヒントになると思います。
もっとも、都心3区、都心8区は、この「 の 」の字の2サイクル目、3サイクル目に入っています。バブル崩壊から復活してきた1990年代後半には、都心部の虫食い状の駐車場だった土地などに、今度はワンルーム規制条例の対象にならない30㎡程度の広めの1DK、1LDK等の投資用マンションが建てられました。
その2サイクル目物件郡は、現在では築20年程度の中古物件として広く流通しています。そして、このような物件は再び京浜地区、全国の主要都市部へと、かつてのように広がってゆきました。
■ どの辺りの場所ならどの程度の築年、間取りの中古ワンルームが多いか?
歴史を知ると、「 賃貸需要が抜群の都心3区に物件を欲しい。漏水リスクなども少ない築20年以内で、少額で投資できる15㎡3点ユニットワンルームならお手軽&有利に投資できそうだから、探してみよう 」と思っても、見つからない理由がわかりますね。
「 都心周辺8区の立地で、30㎡程度、戸数が多く修繕金が十分積みあがっているバストイレ別の1DK、1LDKなら、今後も需要は強そうだ。30年超の築古でも大規模修繕で挽回できるし、古い分だけ安く買えるかもしれないから探してみよう 」という場合も、見つからないわけです。
( 例外として、土地オーナーさんが建てた一棟物件が、事情があって区分として分譲された物件に巡りあえる場合などは別ですが、そういう物件は多くないので、なかなか難しいでしょう。)
振り返ると、20年前の2000年当時は、15㎡クラスのバストイレ一体型ワンルームはほぼ底値状態で、買い放題でした。私は今のような時代が来るなどと想像もつかず、チキン状態で少しずつ投資していました。
今思えば数十万円程度の指値などせず、紹介された物件は全部買っておけばよかったな!?と反省します(笑)
( マイケルジャクソンの買い物のように、『 この棚のJewelryここから、ここまで全部買うよ 』という感じですね:笑)
一方、その10年前の1990年位にどんどん買っていたら、その後のバブル崩壊で大変な目にあったでしょう。最初の1室を買っただけで踏みとどまった自分をほめたいですし、そうしてよかったと冷汗が出ます。
また、ワンランク上の30㎡クラスのバストイレ別の1DK、1LDK物件は2000年くらいに都心部から外側へ吹き出し始めました。こちらは、インカムだけでなく、売却時の利益確定を前提としないと投資できない価格でした。こちらは、むしろ、これからじっくり選んで買うべき物件だと思います。
このように、区分物件( 特に投資用物件 )は時代ごとに特性が分かれており、同じ時期にまとまった類似物件群が同じエリアに集中しやすくなります。それを知っておくと、物件が探しやすくなると思います。
また、私達のような不動産のプロではない個人投資家が区分物件投資をする場合は、時期を分けて、立地を分けて、少しずつ分散投資をしてゆくことでリスクを抑えられることがわかります。その際にも、この 「 の 」の字が参考になるのではないでしょうか。
歴史と投資に「 if 」は禁物ですが、皆様もこの「 の 」の字をイメージしながら東京の地図を広げ、色々なif想定のものに思考シミュレーションを働かせてみると、今後の投資へのヒントが得られるかもしれません。