OPSECは大事!?(転載)


pw●社にドライブ経由で怪しいファイルを共有した後、すぐにロックかけたらp者の社内の知らない人からアクセスリクエスト来た。ほら、言わないこっちゃ。 #opsec 大事よ。バレバレだからね

 企業や組織に関して何らかのデータが公になった時に、敵がそれを他のデータと的確に組み合わせて巧妙に分析すると、秘匿しておくべき全体像が明らかになる場合がある。そうした事態を防ぐように自組織のデータを保護するプロセスがOPSEC(Operations Security:作戦保全)だ。


 OPSECという言葉を最初に編み出したのは、ベトナム戦争時の米軍だ。当時、米軍の戦略や戦術が敵に読まれていると見られたことから、Purple Dragonという作戦チームが調査した。北ベトナムやベトコンは米国の通信を解読できておらず、また内部でデータを収集できるスパイもいないと見られたことから、米軍自身の不注意で重要な情報が敵にばれているとの結論が導かれた。軍事分野でのOPSECの定義としてPurple Dragonが最初に定めたのは、「我々の優位性や弱点を敵軍に知られずにおく能力」だった。 もともと軍事分野が発祥の概念だが、コンピューター時代には、政府機関や民間企業にとっても極めて重要な考え方となった。OPSECを強化するための策を考えておくことは、あらゆる組織の最高セキュリティ責任者(CSO)にとって欠かせない。

 その後、OPSECの概念は、米軍から米政府機関へ、さらには民間部門へと徐々に広がり、細かな肉付けが施されていった。米国の核兵器を管轄する米エネルギー省では、OPSECについて、「非機密情報や、支配下にある重要情報が、短期的または長期的に秘匿が必要な機密情報を知る手がかりとなり得る場合に、そのような情報を特定するプロセス」を扱うものだと説明し、「OPSECの目的は、任務・作戦・活動についてのセンシティブな非機密情報を識別・統制・秘匿すること、および、その任務・作戦・活動を敵が侵害する能力を無効化または緩和することである」としている。

OPSECの失敗例

 ここまでの定義や説明は、どれも非常に抽象的だ。OPSECには具体的に何が含まれるのだろうか。それを理解するには、OPSECの顕著な失敗例をいくつか見てみるのが一番かもしれない。公になった情報をつなぎ合わせ、当事者が隠しておきたかったであろう全体像をあぶり出すことに成功した事例である。

 まずは、立場上もっと慎重であるべきだった人に関する顕著な事例を見てみよう。2017年3月、Gizmodoのライター、Ashley Feinberg氏は誰でも入手できるいくつかのデータだけを基に、当時の米連邦捜査局(FBI)長官のJames Comey氏がひそかに開設していたInstagramアカウントとTwitterアカウントを突き止めることに成功した。ソーシャルメディア上の証拠をたどって答えを導いた見事なお手本だ。

 Feinberg氏は、Comey氏の息子のBrienさんが米ケニオン大学のバスケットボール選手であることを知り、同大学の運動部のInstagramアカウントでBrienさんに関する動画を見つけた。その投稿に付いたコメントの1つは、Brienさん個人のInstagramアカウントにタグ付けされていた。そこでFeinberg氏は、匿名の使い捨てアカウントを使って、Brienさんのアカウントにフォローリクエストを送った。こうすると、その人に関連するアカウントをフォロー先の候補としてInstagramが提示してくれるからだ。

 この時提示されたアカウントの中に、「reinholdniebuhr」という鍵付きアカウントがあった。このアカウント名の基になっているReinhold Niebuhrというのは、James Comey氏が卒論のテーマにした神学者の名前だった。これがComey氏のアカウントだとFeinberg氏は確信した。

 また、Twitterアカウントに関しては、「niebuhr」に関連する名前を使っているアカウントは数えるほどしかなかった。そのうちの1つが、「@projectexile7」というアカウントだった。このアカウント名は、Comey氏が1990年代に立ち上げに携わった銃犯罪対策プログラムに由来するものと見られた。また、このアカウントをフォローしていたのは、Comey氏の友人で、安全保障関連ブログの開設者であるBenjamin Wittes氏1人だけだった。こうしてFeinberg氏はアカウントを突き止めた。その後、2017年10月になって、同氏の読みが正しかったことが確認された。

 この事例が見事に示しているとおり、セキュリティ意識が高いはずの人でも、本人が気づかないうちに、ソーシャルメディアにさまざまな手がかりを残していることがある。また、軍事的な意味でこれ以上に深刻な痕跡がFacebookなどのソーシャルメディアに残っている場合もある。

 例えばロシア政府は、ウクライナ東部の紛争に関して、親ロシア派の武装勢力はウクライナ国内の勢力であり、ロシア軍が関与しているわけではないと公式には説明している。だが、ロシア軍の兵士がソーシャルメディアにたびたび上げた投稿の中には、Instagramの写真にうっかり付いていた位置情報から、ウクライナ領内にいたことを明白に示しているものがあった。

 似た例としては、広く利用されているフィットネスアプリ「Strava」がある。フィットネストラッカーのデータを基に、世界各地でユーザーがジョギングなどのアクティビティを行った場所が細かく分かる機能をStravaがリリースしたところ、秘密の米軍基地の場所が明らかになってしまった。このアプリは米軍兵士にも愛用者が大勢いるからだ。

 企業レベルでOPSECに不備があった場合、国家安全保障上のリスクにはならないかもしれないが、当事者にとってはやはり大惨事となりかねない。OPSECに関して見られる過ちとして、米Digital Guardianのブログ記事の中で起業家のShy Bredewold氏が挙げているのは、慣れや不注意から企業の内部情報が漏れる事例だ。「熱心すぎる社員が投稿に加えたタグによって、公にしていないトレーニング施設の存在が明らかになる。あるいは、奥さんにした話が、うちの夫は来月の新機軸のプロダクトのリリースに向けて重圧を感じている、といった話として投稿される」

 また、ずさんな扱いのパスワードが攻撃で狙われる恐れもある。Webサイトのパスワードはたびたび流出事件が発生し、多数のユーザー名とパスワードの組み合わせが公となっている。ハッカーにとっては、こうしたIDの持ち主の勤務先を調べて、再利用しているパスワードを攻撃に使えないか探るのにうってつけだ。

OPSECのプロセス

 OPSECの手順については、米軍が定めた5段階のプロセスがあり、企業や組織がデータやインフラを精査して防御計画を定めるうえでも参考になる。米SecurityTrailsのブログに平易な解説があるが、ここでも簡単にまとめておこう。

1. クリティカルな情報の特定:敵の手に渡ったら組織に損害が及ぶことになるデータを特定する。顧客情報、財務情報、知的財産など、さまざまなデータが考えられる。

2. 脅威の特定:どのような敵に狙われるかを考える。サイバー犯罪集団からライバル企業まで、さまざまな可能性が考えられる。敵の種類によって標的のデータが異なる場合があることに留意する。

3. 脆弱性の分析:企業や組織のセキュリティ対策で核となるステップの1つだ。綿密なセキュリティ監査を実施して、インフラの弱点を明らかにする。

4. リスクの評価:脅威のレベルを特定する。すなわち、ステップ3で明らかになった脆弱性により、ステップ1で特定した重要なデータが、ステップ2で特定した敵にどのように漏れるのかを明確にする。公になった脆弱性を利用されたらどの程度の損害が生じ得るのかや、そうした攻撃を実際に受ける可能性がどの程度あるのかを割り出す必要がある。

5. 対応計画の策定:ここまでで探った情報に基づき、脆弱性を解消してデータを万全に防御するための計画を策定する。

OPSECの対策


変更管理プロセスを導入する OPSEC計画の中で講じられるセキュリティ対策にも、やや抽象的な面はあるが、HackerCombatの記事では、次のようなベストプラクティスを挙げている。

  • ネットワークデバイスへのアクセスを必要最小限のみに限定する
  • 社員に与えるアクセス権は極力減らし、最小権限の原則を徹底する
  • タスクを自動化して人間の弱点を排除する
  • インシデント対応と復旧の計画を定めておく

 SecurityTrailsの記事では、OPSECの計画で注目すべき部分について細かく挙げている。氏名、IPアドレス、言語、メールアドレスなど、個人を特定するセンシティブなデータに細心の注意が必要なのは当然だが、人的側面への対応も欠かせない。特に、社内の人間にOPSECの意識を習慣づける必要がある。データやデバイスの暗号化、データの転送に対するモニタリング、特定のデータへのアクセスの制限など、いくつかの習慣についてトレーニングが必要だ。

 また、本記事の前半で取り上げたような失敗の数々も意識しておく必要がある。ソーシャルメディアに関しては特にそうだ。第2次世界大戦時の米国では、「口は災いのもと」という意味合いのスローガンがOPSECの推進に使われた。現在の企業や組織にも同じことが言えるし、Facebookへの投稿にも同様の考え方が当てはまる。

OPSECプログラムの責任者

 社内でOPSECの責任者を誰が務めればよいかという疑問を持つ人もいるかもしれない。実のところ、その答えはまだ特に定まってはいない。多くの場合、社内で関心と技能が最も高い人物が、最も適任の候補者である。組織図のどこに位置しているかは関係ない。

 OPSECに携わる人を支援する非営利組織Operations Security Professional's Association(OSPA)のサイトでは、OPSECに関与している人々の事例が分かり、多くの人がたどるキャリアパスや職務の内容を知るうえで参考になる。OPSECに全精力を投じている人もいれば、さまざまな職務の1つとしてOPSECを担っている人もいる。自社でOPSECの考え方を取り入れるにはどのような形をとるのが最善か、各自で考える必要がある。